一般社団法人沖縄県軍用地等地主会連合会(土地連)
沖縄の軍用地に関する問題解決、地主の財産権の擁護及び福利増進を行っています。
第一編 軍用地問題の変遷抜粋
第二章 本土復帰以後
第一節 対米放棄請求権と補償要請
一 関係団体による要請活動
(一) 沖縄返還協定放棄請求権等補償推進協議会
一九七二年(昭四七)五月十五日、沖縄の日本復帰が実現したが、ほとんどの基地が存続する形での復帰に対する不満が高まるなかで、対米放棄請求権問題の補償要求運動が一層の盛り上がりをみせた。
このような世論の動向を背景に、同年九月十六日、県、復帰協、沖縄人権協会、沖縄県市長会、沖縄県町村会、沖縄弁護士会、沖縄県軍用地等地主会連合会(土地連)の代表による「請求権問題に関する協議会」が県の呼びかけで開かれ、放棄請求権問題は、戦後処理の最大であるとして、補償推進のための組織化が検討され、この七者が協議を重ねた結果、県知事と全市町村長で構成する「沖縄返還協定放棄請求権等補償推進協議会(推進協議会)」が、一九七三年(昭四八)五月十八日に結成された。
同年十一月二十九日、推進協議会では、「沖縄返還協定放棄請求権等調査要領及び細則」を決定した。
1、残地補償請求
残地補償請求とは、同一所有者に属する一団の土地の一部が米軍に接収されたため、残地が面積過小、不整形、間口狭小、奥行短小、盲地(袋路)等となり、その価格の低下、利用価値の低下等の損失が生じた場合の補償請求をいう。
2、離作補償請求
離作補償請求とは、米軍の土地接収に原因して従前の農業経営面積が相当程度接収されたため、農業継続が不能又は制限されることによって蒙った損失の補償請求をいう。
3、水利補償請求
水利補償請求とは、河川、池、湧水等の水を継続的、排他的に利用していた者が米軍の土地接収により、当該水利用が禁止又は制限を受けたことによって蒙った損失補償の請求をいう。
4、近傍財産補償請求
近傍財産補償請求とは、米軍の土地接収又は米軍施設からの流水被害等のため、それに隣接する土地が従来の利用価値を制限されて損害を蒙っている場合において、その損害を除去して来の利用価値を維持するために通路、みぞ、かき、さく、その他の工作物の新築、改築、増築若しくは修繕又は盛土、切土をする必要がある場合の必要経費の補償請求をいう。
5、入会補償請求
入会補償請求とは、従来入会慣行のあった林山野が米軍の演習場等となったため、当該林山野への立入が禁止又は制限されたことに伴い、薬草、山菜飼料等の採取が禁止又は制限されたことによって蒙った損失の補償請求をいう。
6、漁業補償請求
漁業補償請求とは、米軍の水面使用その他の行為によって当該区域において従来漁業を営んでいた者が蒙った漁業経営上の損失の補償請求をいう。
7、土地復元補償請求
土地の復元補償請求は、次の各号に掲げるものについて行うものとする。
(1)一九四五年八月十六日から一九五〇年六月三十日までの間に米軍の使用によって形質変更された土地のうち、一九六一年六月三十日までに返還されたもので高等弁務官布令第六〇号の補償もれのもの
(2)一九四五年八月十五日以前に使用され形質変更された土地のうち、一九七二年五月十四日までに米軍により返還されたもので未補償のもの
8、地上物件補償請求
地上物件補償請求は、一九四五年八月十六日から一九五二年四月二十七日までの間に米軍の土地接収等に原因して蒙った次の各号に掲げる項目に係る損害のうち、これまで米合衆国から補償支払がなされていないものを対象とする。
- (1)立毛
- (2)果樹・桑樹・茶樹
- (3)立木竹
- (4)井戸
- (5)溜池
- (6)建物移転
- (7)貯水タンク
- (8)薪炭材
- (9)建物破壊
- (10)墓
- (11)石垣
- (12)護岸
- (13)その他の項目で前各号の項目に該当しないもの
9、境界設定費補償請求
境界設定費補償請求とは、米軍の使用により形質変更されて境界が不明になった土地で、復帰までに返還されたものについてその境界設定に必要な経費の補償請求をいう。
10、管理補償請求
管理補償請求とは、復帰までに返還された米軍使用地のうち、境界不明のため当該土地の利用ができず又は形質変更箇所について原状回復工事をしなければ当該土地の利用ができない場合において、土地調査等による境界の確認又は原状回復工事等の措置によって当該土地の利用ができるまでの間の損失補償請求をいう。
11、土地賃借料補償請求
土地賃借料補償請求は、次の各号に掲げるものを対象とする。
- (1)一九四五年八月十六日から一九四六年十二月三十一日までの間に米軍が使用した土地のうち、高等弁務官布令第六〇号の土地賃借料の補償対象から除かれたもの
- (2)一九四七年一月一日から一九五〇年六月三十日までの間に米軍が使用した土地のうち、高等弁務官布令第六〇号に基づく土地賃借料の補償がなされなかったもの
- (3)一九五〇年七月一日から一九七二年五月十四日までの間に米軍が使用した土地のうち、高等弁務官布令第二〇号及びその他のアメリカ合衆国が発布した布告、布令等に基づく土地賃借料の補償がなかったもの(米国土地損害賠償請求審査委員会への請求期間に請求できなかったもの)
12、復帰前の米軍賠償委員会による却下等事案補償請求
一九五二年四月二十八日から一九七二年五月十四日までの間に、米軍人、軍属等の不法行為に原因して発生した損害に対する賠償請求のうち、米軍の賠償委員会により審査内容も知らされないまま却下され又は不当に裁定され、これに対して不服申立の方途がない状態で処理された事案等について、その補償を請求するものである。
13、米国土地損害賠償請求審査委員会による却下等事案補償請求
復帰前の米国土地裁判所及び沖縄返還協定第四条第二項の規定に基づき設置された米国土地損害賠償請求審査委員会に対し、補償請求したもののうち、委員会等により却下され又は不当な裁定がなされたものについてその補償を請求するものである。
推進協議会では、調査要領及び細則に基づいて、一九七四年(昭四九)二月六日から各市町村を通じ調査作業を開始するとともに、残地補償、離作補償、水利補償、入会補償、土地復元補償、管理費補償、境界設定費補償、土地使用料補償の八項目を六月までにまとめ、一九七四年(昭四九)七月十五日の第四回総会において第一次分請求として決定した。
その補償請求は、四万八、九七八件(八項目)、金額六四五億八四五万二、三三三円であった。なお、近傍財産、漁業補償、地上物件補償などは、第二次請求分として請求することとなった。
同総会では、「放棄請求権等の補償に関する要請」を決議し、この中で「国策によって県民が二七年の長期にわたり異民族の統治下におかれ、その下に失われた人権及び財産権等の諸権利の回復を図るという立場から、早急に補償措置を講じてもらいたい」と訴えた。
この第一次請求分の政府折衝団として、推進協議会長(屋良知事)ほか市町村代表六人の一行は、同年七月二十二日上京し、関係省庁や国会に予算措置の早期実現を要請した。
推進協議会ではその後、一九七五年(昭五〇)七月十五日に第二次請求分として、七万三、一八〇件(一三項目)、金額五一四億四、六〇八万四、九七三円、一九七七年(昭五二)七月十四日に第三次請求分として、二、三八四件(一〇項目)、金額一二億六、四七〇万二、三七五円、合計請求分として、一二万四、五四二件、金額一、一七二億一、九二三万九、六八一円を決定し、その都度、予算措置の要請を行った。
(二) 漁業損害補償獲得協議会
漁業関係の補償請求は、当初は個人による請求もあれば、漁業協同組合などの団体による請求もあるという状態が続いていた。
一九六三年(昭三八)六月一日には漁業損害補償獲得協議会が結成されて、復帰前から請求者側の統一された代表団体によって要請活動を行っていたが、さらに復帰後も、日本政府に対し次のような要請を続けて行った。
1、復帰後の訴願案件補償要請
一九七三年(昭四八)十一月、米国土地損害賠償請求審査委員会に対し、佐敷村漁業協同組合他一三組合が漁業補償を訴願した。訴願数は、その後も増えて約四〇件となった。しかし、和解または一部の事案を除き、一九七五年(昭五〇)五月二十二日までに棄却されたので、日本政府に要請した。
2、日本政府に対する要請
一九七四年(昭四九)七月、沖縄県漁業協同組合連合会、沖縄県漁業協同組合長会、漁業損害補償獲得協議会の三者会長は、連名で沖縄開発庁長官あてに「講和発効時より復帰までの米軍使用のための立入禁止及び操業制限等による漁業損失補償について陳情」と題する次のような陳情書(要旨)を提出した。
- ①本件は多年にわたる沖縄県漁業者の懸案であるが、今日までまだ解決をみていない。一〇年余の長い年月の間、アメリカ合衆国を相手に補償要請と裁判係争を続けてきたが、一向にラチがあかず、ついに復帰を迎えることになった。
- ②アメリカ民政府土地裁判所へ提訴した一七件のうち、読谷漁協の一件だけの判決があったが、その原判決と上訴判決はともに、提訴を棄却するとの判決であった。その理由の一つとして、「補償金を受ける権利があったとしても今回の場合の請求は、対日平和条約第十九条に基づいて放棄されている」としている。
- ③全く同様の米軍使用による漁業操業制限または禁止を受けた本土漁業者は、すでにその損失は国で補償済であり、施政権の一時の分離によって、二〇年間全く補償されていないことは、この上ない不合理であると思う。
- ④私どもは復帰により、国の力で一気に補償解決されるものと期待していたが、何等の進展もないままに今日に至っていることに焦燥感をいだいている。
- ⑤前述の観点から、今後は、請求権問題についてはアメリカとの間で決すべきものだと思われるので、従来の請求権問題とは切り離して、国としての漁業損失補償として取り上げていただきたい。国の関係法令を遡及準用して漁業損失補償要求額を昭和五〇年度に予算措置し、補償されるよう陳情する。
同陳情書は、講和発効後復帰までの期間の被害として四四二億五、二五〇万四、三八三円の補償を要請し、同趣旨の要請は四回にわたり提出された。最終的には一九七七年(昭五二)七月二十日、漁業損害補償獲得協議会、沖縄県漁業協同組合長会、沖縄県漁業協同組合連合会、沖縄県信用漁業協同組合連合会の四会長名で提出され、要請額は五一四億四、二〇一万五、六八五円であった。
さらに、漁業団体による要請とは別に推進協議会からも、放棄請求権に関する他の項目とともに漁業事案の補償請求がなされた。一九七五年(昭五〇)七月十五日付けで、漁業補償一四六億七、九一一万八、六七七円、および米国土地損害賠償請求審査委員会による却下等事案補償(漁業関係)一八億二、二〇六万二、三五六円が提出され、さらに一九七七年(昭五二)七月十四日付けで一、二一八万四、〇三〇円が追加された。これは主として講和前の漁業被害で、布令第六〇号による措置からもれた分であった。
以上の漁業団体と推進協議会の要求額は、防衛施設庁調査報告書によると重複等があり、それを除いた合計額は六五一億三、八六四万二、九五一円であった。
(三) 講和前人身損害未補償者連盟
講和前人身関係の未補償者たちは、一九六七年(昭四二)十一月に未補償者連盟を組織して要請運動を続けていたが、一九七二年(昭四七)五月十三日に法律第三三号「沖縄の復帰に伴う防衛庁関係法律の適用の特別措置等に関する法律」が公布され、同法に基づき防衛庁から見舞金が支給されることになった。
同法の第三条(人身損害に対する見舞金の支給)では、「国は、沖縄において、昭和二十年八月十六日から昭和二十七年四月二十八日までの間に、アメリカ合衆国の軍隊又はその要員の行為により人身に係る損害を受けた沖縄の住民又はその遺族のうち、琉球人の講和前補償請求の支払いについて(一九六七年高等弁務官布令第六〇号)に基づく支払いを受けなかった者又はその遺族に対し、その支払いを受けなかった事情を調査のうえ、必要があると認めるときは、同布令に基づいて行われた支払いの例に準じ、見舞金を支給することができる」と定めている。
また、同法関係の政令「沖縄の復帰に伴う防衛施設庁関係法令の適用の特別措置等に関する政令」(一九七二年五月十五日公布)第一条には、次のとおり定められている。
国は、沖縄において、昭和二十年八月十六日から昭和二十七年四月二十八日までの間に、アメリカ合衆国の軍隊若しくはその要員の作為若しくは不作為により死亡し、負傷し、若しくは疾病にかかり、又はアメリカ合衆国の軍隊の要員により強姦された沖縄の住民(当該作為等又は強姦の行われた当時日本の国籍を有していた者に限る。)又はその遺族のうち、琉球人の講和前補償請求の支払いについて(一九六七年高等弁務官布令第六〇号)に基づく支払いを受けなかった者で次の各号のいづれにも該当しない者に対し、沖縄の復帰に伴う防衛庁関係法律の適用の特別措置等に関する法律第三条に定める見舞金を支給する。
- ①当該作為等が被害者又は第三者の故意又は重大な過失に起因して行われたものであると認められること。
- ②布令第六〇号に基づく支払いの請求をしなかったことが、被害者又はその遺族の故意又は重大な過失によるものと認められること。
- ③見舞金の支給の申請の日において、日本の国籍を有しないこと。
さらに、第五条には「見舞金の種類及び金額」について、次のとおり定められている。
見舞金の種類は、次の各号に掲げるとおりとし、当該各号に掲げる見舞金の支給額は、布令第六〇号に基づいて行われた支払いの例に準じ、総理府令で定める額とする。
- ①療養見舞金
- ②休業見舞金
- ③障害見舞金
- ④遺族見舞金
- ⑤葬祭見舞金
- ⑥慰謝料
見舞金の請求期限は、一九七二年(昭四七)五月十五日から一九七三年(昭四八)五月十四日までの一年間となっていた。期限をもっと延長せよという声もあったが、未補償者連盟や市町村などの呼びかけで、ほとんどの該当者は期限内に請求書を提出した。
申請数は、一九六九年(昭四四)十月三十一日に未補償者連盟が集計した数に比べると、かなり増加していた。同連盟の集計では、死亡一六〇件、傷害一五七件、合計三一七件となっていたが、那覇防衛施設局によると、被害者及び遺族から五九〇件の申請が行われ、支給が認められたもの五六九件(死亡二二二件、傷害等三四七件)、支給総額二億一、一七三万四、二五二円となった。
このように講和前人身関係未補償事案は、法令による措置によって解決され、未解決事案は講和後の人身関係だけとなった。
二 日本政府の対応と措置
(一) 防衛施設庁の調査
政府は、沖縄復帰対策要綱(第三次分)の対米請求権については「実情を調査の上、国において適切な措置を講ずるものとする」という規定に基づいて現地調査の実施を計画し、一九七三年(昭四八)八月六日、内閣審議室、沖縄開発庁、防衛施設庁による協議会を開催して、次のとおり具体的な方針を決めた。
- 1、沖縄における対米請求権問題については、当面、防衛施設庁が中心になり、沖縄開発庁の協力の下に、早急に調査を行い、実情の把握に努める。
- 2、調査結果に基づく事案の処理については、防衛施設庁、沖縄開発庁及びその他の関係省庁で協議の上、処理することとし、その協議が整わないときは、内閣審議室において調整を行う。
- 3、対米請求権問題に関する現地における住民からの相談、要望の受付は、防衛施設庁が当たることとし、沖縄開発庁沖縄事務局もその窓口となり協力する。
その他現地における住民等の苦情の受付については、原則として沖縄開発庁沖縄総合事務局が当たる。(『沖縄開発庁二十年史』)
この方針に基づいて、防衛施設庁は推進協議会の第一次、第二次請求分(一四項目)合計一二万一、四九六件、一、一五八億五、〇一九万一、四六五円について、現地の実情調査を行い、一九七六年(昭五一)八月に「いわゆる沖縄における対米請求権問題実態調査報告書」をまとめた。
ところが、対米請求権事案に関する政府の唯一の調査結果である「防衛施設庁報告書」は、その処理について厳しいものであることをうかがわせる内容となっていた。
(二) 沖縄開発庁に所管を決定
放棄請求権の全体について、政府としてどのような処理方針で臨むのか、という基本方針が決まらず、請求権の処理が進展しない事態に、沖縄の関係者は不満といらだちをみせていたが、一九七七年(昭五二)三月九日、内閣審議室を中心に関係省庁が請求権問題について協議した結果、次のように沖縄開発庁が担当することを決定した。
1、復帰前における沖縄の特殊事情に起因する問題事案については、別に法律または閣議決定で定めるもののほか、沖縄開発庁(現地においては、沖縄総合事務局)が、その窓口事務を担当する。
前記事案の処理については、随時、関係省庁が協議し、必要のある場合には、関係の閣僚会議を開催するものとする。この場合の庶務は、沖縄開発庁(必要に応じ、沖縄開発庁の協力を得て内閣審議室)が担当するものとする。
2、当面する左記の二事案については、前記の原則に従って処理するものとする。
(1)VOA職員および契約従業員の退職金問題
(2)いわゆる対米請求権問題
(ただし、関係省庁の協議は、内閣審議室が招集する。)
請求権問題を担当することになった沖縄開発庁は、一九七八年(昭五三)五月一日、内閣審議室の協力を得て「沖縄における対米請求権問題の処理に関する連絡会議」(連絡会議)を設置し、対米請求権問題の処理方針等について協議、同問題の早期解決を図ることとした。連絡会議の内容は、次のとおりである。
(第一条)沖縄開発庁は、復帰前の沖縄におけるいわゆる対米請求権問題の処理方針の策定等に資するため、内閣審議室の協力を得て、連絡会議を運営する。
(第二条)連絡会議は、内閣審議室長、内閣法制局第一部長、沖縄開発庁総務局長、防衛施設庁施設部長、法務大臣官房参事官(民事局担当)、外務省アメリカ局外務参事官、建設省計画局参事官で構成する。
(第三条)連絡会議は、①沖縄開発庁総務局長が主宰し ②必要に応じて参考人の意見を聴取し ③その決定によりオブザーバーの出席を認めることができる ④議事は原則として非公開とする。
(第四条)連絡会議に幹事会をおき、連絡会議を構成する者の属する省庁の関係課長又はこれに相当する職にある者をもって構成し、請求権問題の処理に関する調査研究等を行い、連絡会議に報告する。
同連絡会議は、沖縄県や推進協議会等の意見を聴取しつつ幹事会を頻繁に開催して、検討協議を行い、以後請求権問題は、解決に向けて急速に進展した。
(三) 対米請求権問題の解決
(一) 漁業関係事案
終戦から復帰までの期間において、米軍の行為により生じた漁業関係事案については、一九七四年(昭四九)七月二十六日から補償要請をはじめてきた。最終的には、一九七七年(昭五二)七月二十日に漁業損害補償獲得協議会、沖縄県漁業協同組合連合会外二団体から四五件、六、四七〇名、五一四億四、二〇一万五、六八五円の補償要請がなされ、これとは別に講和前関係分について推進協議会から三八件、五、二四一名、一六五億一一八万一、〇三三円の補償要請がなされた。
この補償要請に対し、防衛施設庁は、復帰前米軍が沖縄近海に広汎な演習水域を設定し、射爆撃や艦船の演習等の水域に使用したことにより、明らかに米軍演習による被害の事実が存在するにもかかわらず、米側は布令六〇号によって一部の補償を行ったのみで、特に講和後の損害について何らの措置も講じていないことから救済措置を講ずる必要があるとして、補償要請のあった事案を対象に、漁業の操業制限と水質汚濁等の被害を被害発生原因別に整理し、各要因の事実の確認調査を行い(防衛施設庁調査報告書)、次のように(要旨)をまとめている。
1、調査概況
補償要請のあった事案から、米国土地損害賠償委員会においてすでに和解した事案、請求を取り下げた事案及び補償が重複している事案を除き整理すると、漁業の操業制限による請求案件四二件、七、三二八名、六四九億二、五七二万三、三四〇円(講和後分四二件、六、二〇九名、五〇五億七、七六二万八、二九一円、講和前分三三件、四、九六三名、一四三億四、八〇九万五、〇四九円)と水質汚濁等による請求事案三件、一四三名、二億一、二九一万九、六一一円となる。
2、調査結果及び問題点
(1) 調査結果
(米軍の制限状況調査)
諸資料から米軍制限水域の所在及び制限開始の時期は、おおむね把握できるが、これは主として射撃場水域に限定されており、その他の訓練水域、保安水域については、防衛施設部作成の提供施設区域の使用実態調査(沖縄県所在分)によって復帰前の米軍の制限状況を推定することができる。
しかしながら、使用頻度等制限実績については、一部の水域を除き、組合、市町村、県、県警及び米軍にその立証を求めたところ、皆無にひとしい状態ではあったが、現在の沖縄県における米軍の制限状況から推定などして二八ヵ所の制限水域については確認することができた。これでも終戦から復帰までの制限水域全部であるとは限らず、布令第六〇号で補償された実績のある制限水域で、内容の確認ができないものもある。
(関係漁業者の操業状況調査)
補償請求期間における漁業者の権利関係、操業実績等を概括的に承知する手段として、漁業権、許可証及び使用漁船などについて調査したが、証するものがなく、組合員又は長老の記憶を基に、当時の概況を把握する程度であった。
しかしながら、琉球政府の発行した統計資料(琉球の水産)により、各年ごとの漁価及び市町村別の漁獲量の把握が可能であり、又、漁場範囲等は、現在の操業状況より推定し、更に米軍の制限状況については、1、で述べたとおりであるので、これらを基礎として漁業の操業制限による被害総額を推定することは可能である。しかし、この場合においても個人別被害額の算定は不可能である。
(2) 問題点
- イ、米国土地損害賠償請求審査委員会が却下した事案をいわゆる請求権該当事案として取り扱うことの可否
- ロ、布令六〇号の補償もれや本土では漁業権設定が認められたと思われる水域での漁業被害を、いわゆる請求権該当事案として取り扱うことの可否
- ハ、講和発効前の漁業被害を救済する場合の布令六〇号との均衡
- ニ、本土における駐留軍関係の漁業補償金の算定方式と本補償請求の算式の相違
(3) 今後なお検討を要する事項
復帰前の制限水域の再調査(一部不明確なものがある)や各漁業協同組合別の漁獲量、漁価の推定方法(琉球政府の統計資料に県全体の漁獲量しか把握できない年次がある)、布令六〇号で補償された既補償分と重複しないような計算方法等、今後も検討する問題がある。
このように防衛施設庁報告書は、問題点や今後の検討事項を指摘しつつ、結論として、「基本的に米軍の漁業の操業制限による漁業経営上の損失については肯定できるが、漁業者個人別の把握はできない。しかし、琉球政府の統計資料等の活用等により、少なくとも漁業協同組合別の損失は積算可能であり、救済について考慮の余地がある。」旨報告している。
この報告書の結果は、同事案の早期処理を促すものとなり、関係者の間では他の事案と切り離した先行処理を要望する声が高まった。推進協議会では、一九七七年(昭五二)八月十六日の総会で、①漁業関係事案は他の請求項目から切り離して昭和五三年度予算で措置してほしい ②漁業関係の窓口は漁業損害補償獲得協議会に一本化することを決定し、政府に要請した。
政府においては、同年八月十九日、「沖縄のいわゆる対米請求権問題についての当面の処理方針」を次のとおり決定した。
1、政府に提出された請求権に関連した請求項目のうち、損害が推定しうる漁業に関する請求を一括して、その他の請求項目と分離し、それに先立って処理する。
2、漁業に関する請求について、次のとおり処理する。
- (1)予算要求等の形式的窓口は、主として、沖縄開発庁、請求者団体との交渉とこれに付随する事務は、主として、防衛施設庁が、それぞれ担当する。
- (2)交渉の相手側は、漁業損害補償獲得協議会とし、窓口は一本化する。
- (3)前記1、及び2(2)について、沖縄側の確認が得られれば、沖縄開発庁は、五十三年度予算の概算要求に必要な要求を行う。
3、漁業に関する請求以外の残余の請求項目については、関係省庁による行政協議会(関係団体の意見は随時、徴する)を設置し、今後の取扱い方針を検討する。
なお、当協議会は沖縄開発庁が担当する。
この方針に基づいて、数回にわたり防衛施設庁は、漁業損害補償獲得協議会の代表と折衝を行った。その結果、一九七七年(昭五二)九月七日、沖縄漁業者等特別支出金総額三〇億円を三年間で支払うということで合意した。特別支出金の交付は、県一本の交付かあるいは漁協単位の交付かについて検討されたが、積算が県一本になっており、漁協単位の計算が不可能であること及び沖縄県の強い要望があったことから、県一本で新設予定の財団法人の基本財産に受け入れることが決まった。
このように、漁業関係事案は、被害事実の推定が比較的容易であること、漁業損害補償獲得協議会が国から特別支出金の一括交付を受け、その支出金を将来の沖縄県の漁業のため、有効に活用したいという強い意向を示したこと等から、他の事案と切り離して処理されることとなった。
漁業損害補償獲得協議会は、総額三〇億円の特別支出金の受け入れ対策を検討するため、一九七八年(昭五三)五月十六日、新たに漁業損失補償対策協議会を設立(漁業損害補償獲得協議会は同日発展的に解消)し、受け入れ対策を検討した結果、「基金」を設立して、特別支出金を同基金に一括して受け入れることを決定するとともに、同年七月五日、沖縄県漁業振興基金設立準備委員会を発足させた。同年十月十三日には、漁業損失補償対策協議会の臨時総会において「財団法人沖縄県漁業振興基金」の設立が可決された。この基金は、特別支出金の運用益で「沖縄県の漁業の振興に寄与すること」を目的としており、同年十一月十五日沖縄県知事から許可され、特別支出金については、昭和五十三年度から昭和五十五年度までの三年間に総額三〇億円が交付された。
同基金は、漁業公害対策事業、漁業後継者育成事業、水産物流通対策事業等を実施し、設立以来、沖縄県の漁業振興に寄与している。
(二) 人身関係事案
人身関係事案のうち、講和前のものについては、布令六〇号(一九六七年一月十日)に基づき米国が支払いを行い、さらに、その措置からもれたものに対して「沖縄の復帰に伴う防衛庁関係法律の適用の特別措置等に関する法律」に基づき、防衛施設庁が見舞金を支給したことにより解決された。
ところで、講和後から復帰までの事案については、米国の外国人請求法に基づき、米国が措置を行っていたが、復帰前の沖縄の特殊な事情等により措置されなかったり、措置が十分でなかった事案が多数あったため、推進協議会から要請がなされていた。
補償の対象者について具体的にみると、一九五二年(昭二七)四月二十八日から一九七二年(昭四七)五月十四日までの沖縄の区域内において①合衆国軍隊、その要員等の行為等により人身に被害を受けた沖縄の住民又はその遺族で、まだ合衆国軍隊等から補償金の支払いを受けていない者 ②被害者又はその遺族で合衆国軍隊等から補償金を受けたが、その額が不当であると認められる特別な事情がある者に区分される。
ところで、この人身関係事案は、被害実態の把握が比較的容易である等の理由で措置の必要性が認められ、さらに地元要請団からの早期処理の要請により、土地関係等事案から切り離されて補償措置が先行した。
これらの事案について沖縄開発庁は、一九七九年(昭五四)八月二十七日「人身被害補償請求事案に対する処理方針」を決め、防衛施設庁が処理した講和前人身被害事案に対して処理した見舞金に準じて、特別支出金を支給することとなった。
「沖縄総合事務局二十年の歩み」によると、昭和五十五年五月二十六日から同年十一月三十日までの間に五五八件の申請(死亡一七六件、傷害等三八二件)が行われ、うち五一四件(死亡一四六件、傷害等三六八件)について支給がなされ、支給総額は、二億七、四七七万六、六二八円(死亡一億四、八八五万八、九一七円、傷害等一億二、五九一万七、七一一円)となっている。
(三) 土地関係等事案
土地関係等事案は、防衛施設庁調査報告書(一九七六年八月)でも指摘されているように、補償体系自体の成立疑義、米施政権時代の補償との重複、地籍不明確のため現地との照合困難、損害額評価時点の不統一、事案が古く立証資料も不十分等のため補償対象となるかどうか、疑問視されるものがかなりあるということで、漁業関係事案や人身関係事案に遅れて処理されることとなった。
このように、最も懸案とされた土地関係事案については、連絡会議の調査検討の結果、一九七九年(昭五四)十二月にこのような方針が出された。
- 1、残された土地関係事案については、支払対象となる各要請項目ごとに全体としての被害額を積算し、これを管理するために設立される団体に対して一括支払うこととする。
- 2、一括団体払いにより、残された問題のすべてについて解決することとする。即ち、現在、請求の提出されていない被害を含めていわゆる対米請求権問題全部の解決とする。
- 3、支払いの受け皿としては、県及び市町村を構成員とする社団法人を設立する。国は、県及び市町村の連名による要請に基づき、一括して社団法人に交付する。
- 4、社団法人は「終戦から復帰までの間に米軍等により被害を受け、その回復がなされていない者を受益者とする事業を行うこと」を目的とし、交付された資金を運用して法人の目的に相応しい事業を行う。
この方針を示すに当たり沖縄開発庁は、個人払いについては、①事案が古いため立証資料がないか又は不十分で、支払いが可能と判断できる程度の立証ができず、却下せざるをえない事案が相当多数にのぼると見込まれる ②簡便な立証方法をとることから、却下認容のボーダーラインは恣意的にならざるを得ず、新たな不公平を招くことになる ③一二万件の事案を個別に処理するための事務量と経費は非常に膨大なものであり、処理が完了するまでに、相当年数が必要となる等の問題があるとしていた。
また、一括団体払いについては、①個人払いに比べて処理期間が短縮できる。②立証については個人払いの場合と異なる次元で判断できること、従って総額の積算に当たっては、必要とされる程度の立証が困難な事案でも、一定 of の条件のもとにこれを含めて算定することも可能である等の有利な点があるとしていた。
この沖縄開発庁の処理方針に対し、推進協議会の評議員会で審議を重ねた後、一九八〇年(昭五五)七月十一日の第十七回総会において、諸般の情勢を総合的に検討した結果、対米請求権事案は、長い年月の経過によりほとんどが被害の現況をとどめておらず、また物的人的証拠も著しく乏しい実状にあり、最終的には、この措置以外に現実的な解決策は見出せないとの結論に達し、この方針を受け入れることとし、同総会においては、次のとおり決定した。
- 1、陸上事案(土地関係等事案)の取り扱いについては、一括払いの措置を受け入れ、その受け皿として、県知事及び市町村長を構成員とする社団法人を設立する。
- 2、社団法人が行う事業は、請求権者に利益が還元されるようなものとする。
- 3、当該事案の早期解決の為、関係省庁に対し要請を行う。
こうして土地関係等事案は支払方針が決まり、一九八〇年(昭五五)八月二十六日沖縄開発庁においては、支払金額を一〇〇億円とすることを決定し、推進協議会に提示した。
推進協議会は、翌二十七日の評議員会において、沖縄開発庁の提示額について審議した結果、①沖縄開発庁から提示額一〇〇億円については、早期解決を図る上でやむを得ない。②知事はなお増額のため、今一度努力を払っていただきたい ③最終的な妥結額については、知事に一任することを決めた。
さらに、同年十月二日「対米請求権陸上事案についての申し合わせ」及び沖縄開発庁長官あての「要請書」を次のとおりまとめた。
1、対米請求権陸上案についての申し合わせ
- (1)予算確保について、評議員全員が、会長(知事)及び沖縄開発庁に協力する。
- (2)団体一括払い受け入れのための公益法人の設立、事業内容等については、県において早急に検討を進めるものとし、評議員全員はこれに協力する。
- (3)対米請求権陸上事案についての予算要求に係る大臣あての要請及び前記申し合わせ事項について推進協議会の会員全員の賛成を得るよう、評議員全員一致で努めるものとする。
2、要請書(十月三日付)
- (1)予算要求総額は、一二〇億円とし、五年の分割払いとすること
- (2)支払いは、新たに設立される公益法人に対する団体一括払いとすること
- (3)公益法人は、支払われた特別支出金を活用して所要の事業を行うものであること
- (4)前記により、いわゆる対米請求権にかかる事案は、未請求事案を含め、一切の解決とするものであること
推進協議会会長である西銘順治県知事は、土地関係等事案の特別支出金について中山太郎沖縄開発庁長官と折衝した。その結果、特別支出金総額は一二〇億円とし、五年の分割払いとすることのほか、前記要請書の中の要請項目全部について合意に達し、最終的には、一九八〇年(昭五五)十二月二十七日の渡辺美智雄大蔵大臣と中山沖縄開発庁長官との間において特別支出金総額一二〇億円とし、七年の分割支払いとすることで合意された。
これに対し補償要請者の一部には「一括払い」に反対し「個人に支払うべき」と主張する声もあった。
特に土地連においては、一九八一年(昭五六)五月三十日の総会で「証拠がそろい被害事実がはっきりしているのは個人払いにすべきで、市町村振興基金や市町村の事業に使うのは、請求権者の財産権を無視したやり方だ」として「対米放棄請求権等の補償に関する要請決議」を行い、沖縄県対米請求権事業協会(会長西銘知事)に対し、個人払いの要請を行った。
要請決議書の内容は次のとおりである。
対米放棄請求権等に関する補償問題については、かねてから、本会においてもその早期解決を要請して参っているところでありますが、この度、政府においては、沖縄県との合意に基づき特別支出金(見舞金)として一二〇億円を七か年に亘り支払うことを決定しております。
しかしながら、同特別支出金は、被害を受けた個人に、直接支払われることなく、沖縄県対米請求権事業協会が窓口になっての一括払い方式がとられるうえ、市町村振興基金にあてるほか、市町村が実施する単独事業の資金運用を図るなど、請求権者の財産権を無視した一方的な措置が講じられようとしていることは甚だ遺憾であります。
対米放棄請求権は、復帰前、米合衆国の統治期間中において、米軍による土地接収、米軍人、軍属等の不法行為、その他米軍基地の存在によって県民が被った損害がその対象となっておりますが、請求権者の殆んどは軍用地関係地主であります。
本件に関する請求にあたっては、対米放棄請求権等補償推進協議会の調査要綱にもとづき、長期間に亘り、個々の被害の実態について綿密な調査がなされており、軍用地関係者らは、長年の懸案である放棄請求権に関する補償問題の解決に大きな希望と期待を寄せていただけに、この度の同特別支出金の処理方針は、理由の如何を問わず到底容認することはできません。
よって本会は、軍用地関係地主の財産権を擁護する立場から、対米放棄請求権に関する補償については復帰前に処理された講和前損失補償に準じ、個々の請求権者に直接支払われるべきものでありますので、関係地主らの意思を十分尊重し、すみやかに適切な補償措置を講じて戴きますよう、強く要請いたします。
右のとおり決議する。
一九八一年五月三十日
沖縄県軍用地等地主会連合会
さらに、具志川市昆布軍用地等地主会においても、同年六月六日に総会を開き「補償は個人に支払え」との要請決議を全会一致で採択するなど、各地区の地主会でも同様の要請決議がなされたが、結局、土地連の要請は実現を見るに至らなかった。
したがって、対米請求権問題については、最終的に、政府において次の方針にもとづき措置されることとなった。
- 1、沖縄復帰対策要綱(第三次分)第八の一「対米請求権に関する処理」に基づき、対米請求権事案のうち、既に処理済みの漁業事案及び人身事案以外の事案に対する措置として、土地関係特別支出金を交付する。
- 2、特別支出金は、補償推進協議会の要請に基づき、同協議会の指定する公益法人に一括して交付するものとする。
- 3、特別支出金の一括交付により、沖縄復帰対策要綱(第三次分)第八の一「対米請求権に関する処理」に基づく対米請求の一切の措置は、すべて完了するものとする。
このように土地関係事案は、同事案が米軍の施政権下において発生し、以来、長い年月が経過している特殊な事案であることから、推進協議会の意向も勘案して、日本政府が特別支出金を公益法人に一括交付し、当該法人が被害者等のための事業を行うということで解決する事になった。
一九八一年(昭五六)五月二十二日、県知事と全市町村で構成する「社団法人沖縄県対米請求権事業協会」の設立が決議され、一九七三年(昭四八)以来、対米放棄請求権に関する補償獲得のために組織されていた推進協議会は、その役目を果たし、解散した。
総額一二〇億円の特別支出金は、同協会に対し、昭和五十六年度から七年間で交付されることになっていたが、政府の財政事情により、実際には八年間の交付となり昭和六十三年度に交付が完了した。
これより、先行して処理された漁業関係事案、人身関係事案に続いて、対米請求権事案の大部分を占める土地関係等事案の解決が図られることになり、いわゆる対米請求権事案に関する処理は全て完了することとなった。
同協会は、国から交付された一二〇億円の特別支出金を基金とし、その運用益でもって、設立目的の諸事業を実施し、多くの成果を挙げている。
【主要参考資料】
- ・沖縄県対米請求問題の記録(沖縄県対米請求権事業協会編、一九九四)

