一般社団法人沖縄県軍用地等地主会連合会(土地連)
沖縄の軍用地に関する問題解決、地主の財産権の擁護及び福利増進を行っています。
第三節 沖縄返還協定交渉と対米請求権問題
一 日米両政府の主張
一九六九年(昭四四)十一月二十一日、日米首脳会談において「七二年沖縄返還」が合意され、日本政府は「沖縄返還協定」の締結に向け準備に入った。
ところで、日本政府は、沖縄返還交渉の焦点の一つとなった「沖縄住民の対米請求権」の処理についても米国側と交渉をはじめたが、この問題は、補償分担に対する両政府の主張が一致せず、進展がみられなかった。
日本政府は、補償要求事案を
①講和発効前の人身損害補償、
②軍用地の復元補償、
③漁業補償、
④軍用地接収による通損補償、
⑤軍用地賃借料の値上げ、
⑥入会慣行への補償、
⑦講和発効後の人身損害補償、
⑧潰れ地の補償、
⑨滅失地の補償、
⑩基地公害の補償、
に分離して、補償を米国と分担したいとしていたが、米国は、最初から拒否の態度をみせた。
人身関係事案に対しては、講和前補償の際、支払い済みであるとし、補償もれがあったとしても「今回限り」として米国議会の承認を得ており、また当時、琉球政府を通じて申請もれのないよう再三、勧告したなどを理由に、さらに補償するのは困難であると、最初から拒否した。
ただ、軍用地の復元補償については、一九五〇年(昭二五)七月一日前に接収され、一九六一年(昭三六)六月三十日後に開放された土地の補償がなされていないことを認め、補償の法的根拠を検討しているということで、その結果待ちとなった。その他の請求については、その都度、支払い済みだという態度であった。
日本政府は、交渉を重ねるなかで、講和前人身損害補償と復元補償だけを米国に負担させ、他の補償は、日本側が肩代わりするという方針を固めて、さらに、折衝を続けたが、米国はこの案にも応ぜず、また、譲歩をみせていた復元補償についても、拒否するようになった。
日本政府は「請求権を政府が放棄しても、沖縄県民の個々の請求権は消滅したわけではない」という立場から、補償の分担を主張していたが、折衝は進展をみるに至らなかった。
一九七一年(昭四六)二月十七日の参院沖縄・北方特別委員会で、愛知外相は「できるだけ沖縄の要請を入れ、不安の解消に努めることを基本姿勢として、米国との交渉に当たっている。内容的には、まだ煮詰まっていない。」、また「請求権問題は対米折衝に委ねるべきものと、これでカバーできないものがある。カバーできないものは、政府が十分考慮する。」と述べた。
このようにして、日本政府としては、沖縄の対米請求権問題について最後まで、折衝を続ける姿勢を示したが、日米両政府の合意は結局、愛知外相、ロジャース国務長官の最終会談まで持ち越された。
二 沖縄側の要求
琉球政府では、一九七〇年(昭四五)十一月「軍用地問題等に関する提案」と題する要請書を日米琉復帰準備委員会に提出し、日米両政府に補償問題の早期解決を訴えた。この要請書には「一九六九年十一月の日米共同声明は、沖縄の復帰に当たって、日米安全保障条約及びこれに関連する取決めを図ることを合意しているが、これについて沖縄県民は多大の不安と不満を抱いている。」とし、過去二五年余にわたって蒙った不当な損失を回復し、さらに、将来の利益擁護の立場から提案したと述べている。提案の要旨は、次のようなものであった。
1、軍用地の地位協定適用について
沖縄の施政権返還に伴い、米軍の土地使用の根拠法令となっている布令第二〇号は失効し、沖縄における米軍の土地使用の法的根拠がなくなる。
したがって、沖縄の軍用地が復帰時点で地位協定の適用による施設及び区域として引き続き使用されるとするならば、新たな手続きを必要とする。
本土の場合は、政府と地主との間で、原則として、民法上の賃貸借契約(期限は一ヵ年で毎年更新)を締結して賃借権を取得し、これを米軍に提供している。
したがって、沖縄の軍用地についても、本土と同様の民法上の賃貸借契約を地主との間で新たに締結すべきである(但し、借料その他の損失補償については、沖縄の特殊事情を考慮すべきである。)
日本政府は、沖縄の軍用地については本土と同様、地主と新たな賃貸借契約を締結するよう強く要求する。
2、軍用地の解放(基地の整理縮小)について
沖縄における軍用地面積は、沖縄陸地面積の八・七パーセントを占め、その殆どが沖縄本島に集中し、その一四パーセントが軍用地となっている。
土地狭隘な沖縄において、都市計画、経済開発、宅地造成等のうえで大きな障害となっている。豊かな沖縄県作りを推進するためには、これらの障害となっている軍用地を最大限に、かつ、早急に解放する必要があるので、この問題を早期に解決してもらいたい。
3、復元補償について
一九五〇年七月一日以前に米軍によって形質変更された軍用地で、
(1)一九六一年六月三十日までに返還されたものについては、布令第六〇号により、復元補償が米軍によってなされた。
(2)一九六一年七月一日以後に返還されたもの及び将来、返還されるものについては、復元補償を拒否している。
一九五〇年七月一日以後に米軍によって形質変更された軍用地で、
(1)復帰までに返還されるものについては、米合衆国により、復元補償がなされるので問題はない。
(2)復帰後に日本政府により、返還されるものについては、日米両政府のいずれに補償責任があるか問題である。
なお、沖縄返還協定において、これらの請求権が放棄される場合は、日本政府が全面的に補償するよう措置すべきである。
4、軍用地の取得に伴う通損補償について
これまで米合衆国が、沖縄において軍用地を取得する場合、地料支払いと地上物件の買上げ補償のみを行い、土地取得に伴って通常生ずるその他の損失補償、例えば離作補償、残地補償、隣接財産の補償、漁業補償等は、なんら行われていない。
本土においては、これらの補償がなされているので、沖縄の軍用地についても、当然、これらの補償がなされるべきである。
したがって、復帰前に生じたこれらの損失に対しては、沖縄返還協定の中で、日米両政府のいずれかが責任を負うかについて、明確にしてもらいたい。
なお、返還協定において、これらの請求権が放棄された場合は、日本政府が、全面的に補償するよう措置を講ずべきである。
5、財産及び人身障害の賠償について
米合衆国の軍隊、軍人、軍属等の不法行為による財産及び人身損害に対する補償については、
(1)講和前のもので、一九六一年六月三十日までに請求したものについては、布令第六〇号によって措置され、解決をみた。しかし、同期日までに請求しなかったものは、未解決のままになっている。
(2)講和後のものについては、外国人請求法により処理されている。しかし、これについても、復帰の際、未解決のまま残ることが予想される。
したがって、これらの未解決のものについては、沖縄返還協定の中で、日米両政府のいずれが責任を負うかについて、明確にしてもらいたい。
なお、沖縄返還協定において、これらの請求権が放棄された場合は、日本政府が、全面的に賠償するよう措置を講ずるべきである。
6、土地裁判所訴願事案の処理について
要求については、琉球列島米国土地裁判所に訴願できることになっており、一九七〇年五月末現在、訴願中の事案が九、六一八件(一七、八七八筆)である。
さらに、海上演習等に伴う漁業船の操業制限等によって生じた漁業損失のうち、講和前のものについては、布令第六〇号により補償されたが、講和後のものについては、補償がなされず、目下、琉球列島米国土地裁判所に訴願中であり、一九七〇年五月現在、訴願中のものが一七件ある。
前記事案のほか、これまで土地裁判所に訴願したもので、適正な解決を見なかったものが非常に多い。(一九七〇年五月末現在三、三四八件、うち勝訴五一件で、他は請求却下)
前記事案のうち、復帰のときまでに棄却され、または未処理となっている事案は、復帰後、日本政府において適正な救済措置を講じてもらいたい。
7、入会制限に伴う損失補償について
従来、入会慣行のあった山野が、米軍の演習場として接収され、当該山野への立ち入りが制限又は禁止されたため、山菜飼料、薪炭等の採取が困難になって損失を受けているが、これに対し米国は、なんらの補償も行っていない。
この種の損失について本土の場合は、
適正に補償されているので、沖縄のこの種の損失についても、当然に補償されるべきである。したがって、この種の損失については、沖縄返還協定の中で、日米両政府のいずれが補償責任を負うかについて、明確にしてもらいたい。
なお、返還協定において、これらの請求権が放棄される場合は、日本政府が、全面的に補償するよう措置を講ずるべきである。
8、復帰後の軍用地料について
沖縄の軍用地料は、接収当時の地目等級で押えられているため、土地の客観的な利用価値を反映しない低額なものとなって地主の不満を買い、これが常に、軍用地問題の紛糾の要因となってきた。
この問題の解決いかんが、約四万人の軍用地主の死活問題といっても過言ではないので、地主の同意し得るような地料の評価をしてもらいたい。
9、一時使用許可地について
軍用地のうち、米軍から一時使用許可を与えられている土地は、布令第二〇号によって一時使用権が付与された土地で、地料は全額支払われている。
本土では、施設及び区域内で所有者等が土地を使用している場合、当該土地の地料に、当該土地使用の阻害の程度に応じて、一〇〇分の一〇を下らない割合を乗じて支払われている。復帰に伴い、沖縄の一時使用許可地が本土なみに措置されると、その地料が激減することになるので、地主にとって大きな問題である。
したがって、日本政府は、復帰に伴い、沖縄の一時使用許可地の耕作者に不利益を与えないよう、次の措置を講じてもらいたい。
(1)布令第二〇号に基づき付与された一時使用権の保護措置
(2)地料の全額支払措置
10、未払軍用地料の措置について
米合衆国が直接収用した軍用地の地料は、琉球政府が委託を受けて地主に支払っているが、その中には、地主の居所不明のため連絡が困難なもの、地主が外地にいて現地に代理人をおいていないもの、相続登記未済のため受領権者の確認ができないもの等の理由で、復帰までに支払えないものが相当額あるものと予想される。
当該地料は、一〇年間は琉球政府が保管して支払っているが、二〇年を経過したものは米合衆国に返還しており、地主は返還後においても布令第二〇号に基づき、米合衆国へ請求できるようになっている。
復帰に伴い、布令第二〇号は消滅する。したがって、該布令により支払いが保障されている地料(復帰までに琉球政府が保管しているもの及び米合衆国に返還したもの)については、該布令の消滅にかかわらず、関係地主への支払いが継続補償されるよう措置を講じてもらいたい。
11、非細分土地について
非細分土地とは、軍用地内に在って、軍用地の実測面積から台帳記載の面積を差し引いた残面積の土地である。
このような土地は、布令第一四六号により、市町村非細分土地として市町村管理とし、その軍用地料は、市町村に支払われている。
本土には、このような制度はないが、沖縄の軍用地については地籍調査がなされていない等の実情を考慮のうえ、復帰後もこの制度を認め、それに対する軍用地料は、当該市町村に支払うよう措置を講じてもらいたい。
12、軍用地内の滅失地の扱いについて
沖縄における軍用地には、米軍によって土地がつぶされ、公有水面になっているところがあるが、復帰に伴い、この滅失地がどのように措置されるかが問題である。地位協定に基づく施設及び区域として編入された場合は、日本政府において、適正価格で補償してもらいたい。
13、軍用地主に対する融資措置について
沖縄における約四万人の軍用地主は、その殆どが零細地主で、その所有地の大半が軍用地に接収されたため、従来の農業をはなれて軍作業その他に転職し、自らは高い借地又は借家を余儀なくされている。
これらの地主は、その子弟の育英、生活設計等に必要な資金の融資を切望しているが、唯一の財産である土地が軍用地になっているため、その土地を担保にして融資を受けることが困難な状態である。
日本政府は、このような地主の事情を充分配慮して、軍用地または毎年の軍用地料を担保とした長期低利の融資が受けられるよう措置を講じてもらいたい。
このような琉球政府の要請に加えて立法院代表は、請求権などの沖縄の問題を訴えるために上京し、一九七一年(昭四六)三月十九日、愛知外相に対して、次のように要請した。
- 1、沖縄返還協定は、奄美、小笠原方式だと直接、米政府に補償の請求をしなければならないので、請求権が宙に浮くおそれがある。
- 2、請求権は、本土政府が責任をもって措置すべきである。
- 3、したがって請求権は、沖縄県民と本土政府のルートを確立し、本土政府が肩代わりした分については、政府間で清算すべきである。
- 4、請求権の内訳は、復元補償が、約四八八万ドル、漁業約一、〇〇〇万ドル、米軍による人身事故約二〇万ドル、原潜汚染約五〇万ドル、毒ガス撤去に伴う損害約二万六、〇〇〇ドルとなっている。
沖縄側の訴えに対して、愛知外相は「どのような補償方法にするか検討しているが、いずれにしろ、最終的には本土政府が責任をとって補償したい。立法院の意見を十分考慮するつもりだ。」と答えた。
琉球政府や立法院のこのような要請にもかかわらず、沖縄返還協定に向けての日米の交渉は難航し、住民は不安な眼で問題の推移を注視した。こういう状況のなかで、米軍が大規模な軍用地解放を予告、新たな復元補償問題が起こった。
土地連においては、一九七一年(昭四六)五月三十一日「解放地の復元補償並びに関係地主の保護措置」に関する要請書を行政主席、立法院議長、県選出国会議員あて提出した。その内容は次のとおりである。
在沖米軍は、一九六一年七月から一九七一年一月までに三〇九万五、九〇七坪の軍用地を解放した。これらの軍用地解放は、市町村の解放要望に応えて行われたものではなく「不要地」として一方的に解放されたものであり、解放地に対する復元補償等関係住民の損害補償はなされないままになっている。
こうした状況の中で、米軍は、去る四月二十二日と三十日、上本部村・上本部飛行場をはじめ・具志川市・宜野座村・石川市など一五市町村に関係する一五二万八、九〇三坪におよぶ大規模な軍用地を、来る六月三十日付けで解放することを予告、またもや「補償なき軍用地解放」を実施しようとしており、関係住民を困惑させている。
市町村の地域開発に寄与する軍用地の解放並びに整理縮小は、関係地主はもとより、地域市町村の発展の立場からも歓迎すべきことであるが、米国が講和条約第十九条をタテに、沖縄住民の対米請求権を認めず、したがって、土地の復元補償の法的補償責任を拒否している現状のままでの一方的な軍用地解放は、地主の財産権並びに生活権の侵害に通ずるものであり、大きな社会問題である。
沖縄の軍用地の大部分は、占領後間もなく収用され、講和発効前において恒久的な諸基地建設のため、肥沃な農地が、コンクリートやアスファルト等で敷きつめられたり、土砂が採取されたりして、地形は見る影もなく変更され今日に至っている。
米国は、一九五〇年七月一日前から継続使用している軍用地で、一九六一年六月三十日までに解放されたものについては、恩恵的措置の形で補償しているが、一九六一年七月一日以後、解放された土地並びに将来、解放される土地については補償責任を拒否しているばかりか、何らの救済措置も講じられていないのである。
解放軍用地は、土地の損壊が大きく、地形も著しく変更されており、所有区分も困難であるため、今後の利用計画が立てられない状況にあるほか、殆どの軍用地主の重要な生活源であった賃貸料はすでに絶たれ、あらたに、約二三万ドルも打ち切られようとしており、地主の生活が極度に脅かされている。
日米琉政府の責任において、次の事項の実現を期してもらうべく強く要請する。
- (1)復元補償の早期解決を図ること。
- (2)解放地の利用計画を市町村及び関係地主と連携の上、早期に策定すること。
- (3)解放地から収益が生ずるまでの期間の賃貸料相当額を補償すること。
- (4)解放地内の未補償地上物件について早急に補償すること。
- (5)解放地の地籍調査を早急に実現すること。
このような米軍の解放予告は、沖縄返還協定交渉で米側が、復元補償を拒否していることともからんで、関係地主をはじめ、住民の不安を一層増大させるものとなった。

